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更新日:2021年2月12日

1:ケーキパーティー


〈絵本の森〉物語

1:ケーキパーティー

アルバの肖像。背景に海と火山島。
 ボク、アルバ。見てわかると思うけど、アホウドリだよ。これはヨシが描いてくれたボクの肖像みたいなもの。で、ちょっとうしろが透けてるの、わかるかな。それはボクが精霊だっていう証拠だよ。若鳥だったころ大嵐にあってね……ちょっと悲しい話だけど、でも仲間を助けようとして……こういう姿になった。ま、ボクの話はまたいつかヨシから聞いてよ(挿絵1)。

 描き上げたヨシはね、満足そうに絵とボクを見比べた。
 「すごくおりこうそうに仕上がったよ。どっからみてもアホウじゃないよね。」
 で、すぐぴしゃっと自分の額をたたいてあやまった。
 「あ、ごめん。そういう意味じゃなくて……」
 「いいよ、ボク、ぜんぜん気にしてないから。」
 こう言ったけど、それはね、ちょっと気にしたことはあるよ。まともに「アホウ」って言われたら、で、いっつも「アホウ」って言われ続けたら、それはどういう子でも落ち込んだりするでしょ。でもある時浜辺でね、大きな大きなウミガメのおじいさんがじっとボクを見て言ったんだ(挿絵2)。
アルバとウミガメのおじいさん。


 「どこから見てもアホウだよ。のんびりアホウをきめこんでいる。でもほんとうはやさしいやさしいおりこうさん。だからいまのままでいいんだよ。」
 ボクはちょうどそのことで落ち込んでたので、ちょっとびっくりして聞き返した。
 「どうして、おじいさん? どうしてボクの気持ちがわかったの?」
 おじいさんは重々しくうなずいて、こう言った。
 「それはわかるさ。年をとってくるとな、いろいろな子供の気持ちがわかるようになる。それでぜんぶわかるころには、この世からいなくなる。」
 おじいさんはぐびっ、ぐびっとのどをならして笑った。それからこういうお話をしてくれた。
 島の小学校で、いくら勉強してもいつも成績が一番下だった子がいてね、先生もクラスの子も、「アホウ、アホウ、いっつもドベのアホウっ子」って言って笑ってたんだって。で、いつも浜辺で一人泣いてたんだけど、おともだちにアホウドリの子がいてね、「じゃ、きょうなにをならったか、ボクに教えてよ」って言った。それで、ゆっくり教えはじめたんだって。九九とか、分数とか、新しい漢字とか……そしたらね、どんどん自分もわかってきて、びっくりしたみたい。しばらくすると、学校でもどんどん成績があがって、とうとう一番になった。
 「つまりな、ゆっくりとわかるたちの子だったんじゃ。それを周りがわかってあげんで、いきなり九九と分数と漢字をずらっと黒板にならべてノートに写させる。あしたまでに憶えてきなさいの一言だけ。これじゃあだれも、なぜそうなのか、いまじぶんはどのくらいせかいのほんしつにちかづいておるのか、それがわからん。それでその子はこんらんしておったんじゃの。人に教えていくと、つながりと、わけと、ほんしつとじつざいからのきょり、これがだんだんにわかってくる、あとはもうずーっとそのみちをりねんをめざして行けばよい、かんたんなもんじゃよ。」
 ふうん、学校ってかんたんだな、ずうっとまっすぐ行けばいいんだなって、ボクもうれしくなった。おじいさんはね、そんなボクをじっと見てこう言ったんだ。  「そのアホウドリが、最初のアホウドリじゃよ。自分からこう言ったそうじゃ。『じゃいいよ、ボクもアホウだからさ、アホウのトリのアホウドリ。ボクにその九九と分数と漢字をじゅんじゅんに教えてよ。二人でこっそりリコウになろうよ。』で、二人ともリコウになった。リコウになった子は、『じゃ、リコウドリだね、言い直すよ』と言ったんだけど、『アホウドリでいいよ、そっちのほうがゆうじょうのきねんになるでしょ』と言って、すうっと飛び立ったそうじゃ。もうからだは透けて、真っ青な空が向こうに見えた。それでその子は、ああえらい神様だったんだとさとって、手をあわせたそうじゃ。」
 おじいさんはぐびっぐびっとのどをならしながら、ゆっくり海にもどっていった……
 ね、いい話でしょ。その話をそのとき思い出したから、ヨシにもこう言ったんだ。
 「ボクたち、すこしのんきすぎるとこあるでしょ。だからそこがそういう風に見えたんだろうね。でもほんとはそうじゃない、せかいをしっかりみつめようとしてるよ。そのきもちは、ヨシのこの絵によくひょうげんされている、ボクはそう思うよ。」
 ヨシはちょっとはずかしそうに、ちょっとうれしそうに頭をかいたよ。で、ボクはこう続けた。
 「ボクたちだってへんけんはあるよ。海鳥だから、島とか浜辺で苦労することがあるでしょ。悪い鳥とか、サメもいるし……そういう時ね、『あのサメはまるで人間みたいに×××だね』とか言ったりするの。あ、これはオフレコだよ。伏せ字だよ。」
 ヨシはちゃんと伏せ字にしてくれた。で、ボクはちょっと調子に乗ってこう続けた。
 「こういうのもあるんだよ。ほら、あのマンボウみてごらんよ。まるで人間みたいに△△△だよ、とか。あ、これも伏せ字。」
 ヨシはちゃんとまた伏せ字にしてくれた。
 ね、わかるでしょ。ちょっと悪口言い合ったりするけど、すぐなかなおりもする。それがボクたち生き物だって、そう思うわけ……
 で、ボクはのんきなたちだけど、ちょっと今あせってる。ヨシがね、〈絵本の森〉っていう題のホームページを開くらしいんだけど、その案内人?ナビゲータっていうんだっけ?そういうのに「ご指名」されちゃったってわけ。これはちょっとなんというか、ことわれない事情もあってね。そのことからまず話そうかな。
 このあいだヨシの山荘(アトリエがあるところ)をぶらっとひさしぶりに訪ねた時にね、奥さんでおともだちの(おともだちで奥さん、だったかな?)みっちゃんがちょうど来てて、ケーキを焼いてくれたの。チーズケーキのほっかほかに、つめたーい生クリームをたっぷりかけて、いれたてのコーヒー。おいしいのなんのって。
 あ、ボクたち精霊ももちろん食べたり飲んだりするよ。ものにはみんな精気がやどってるでしょ。スピリットって言ってもいい。それがね、ふわふわっと漂う。で、食べられる精気と、そうじゃないのがあるから、ちゃんとみきわめて、ぱくっとやるの。ケーキはもちろんオッケーだよ。やけどしそうなコーヒーといっしょ。もうかんどーものだよ。で、夢中になって食べて、ふーってためいきつきながら三人でにこっとして顔を見合わせる、ああ、すごく幸せだなって感じたら、みっちゃんがね、またにこっと笑ってこう言ったの(笑うとけっこうかわいいよ、森の小鳥さんみたい)。
 「わたし、アルバがいいよって、ヨシに言ったの。で、リリーにたのんで伝言してもらおうとしてたの。あ、リリーはもう引き受けてくれたよ。」
 「引き受けたって……なにを?」
 ちょっとびっくりしてこう聞いたんだけど、ああ、ひょっとして……とちょっと思ったよ。わるい予感っていうか……ケーキでつられてなんか難しいこと頼まれたって、キビオとか言ってたし、みっちゃんとヨシのとくいわざかも……
 「森の案内人みたいなものかな……」
 ヨシがお皿に残った生クリームを指につけてしゃぶろうとするのを、奥さんのみっちゃんが「だめよ、太るわよ」と止めたのも、これもいつもの風景だけど……
 リスのリリーはボクのおともだちで、山荘のあるこの森の住人。で、リリーはたしかに森のことくわしいから、案内人にぴったりだけど……ボクは海と島の住人だし……
 そう思ってたら、ヨシはすぐこう言った。
 「リリーは森の中にいるだろ。キミは森を上から見てる。全体を見てるっていうか……そういうのもとってもたいせつな視点だと思う……と、みっちゃんが言ってるんだけどね。ボクもそう思う。」
 「それにね、ほんとうの森じゃないの。森みたいなお話のかたまりっていうか……ほら、ヨシが書いてる絵本、もうどんどんたまってごちゃごちゃの森みたいになってるでしょ。絵本を一つ読んだ人がね、あ、おもしろかったなって思ってくれても、次に何を読もうか、それもわからないくらいにごちゃごちゃ。だからそろそろ案内してあげないとって、そうわたし、思ったわけ。」
 「ごちゃごちゃはひどいよ。あるしゅのひつぜんせいをもって、つぎつぎと生まれてきている、かわいい子たちではある。」
 ヨシはちょっと重々しく言って腕組みしたけど、またすぐにやっと笑って頭をかいた。
 「なんかさ、作者が自作をしょうかいするのって、気恥ずかしくてさ。だったらいっそその森の中で生きてる、森を上からも見てるキミたちに紹介してもらおうかなって思ったんだ。」
 「ね、面白そうでしょ。登場人物、作品を語る、おおいに作者を批判せり、みたいな。」
 みっちゃんはけたけた笑いながら、おかわりのコーヒーをついでくれた。あまり奥さんとしての思いやりの感じられない笑い方。どんどんひはんしてちょうだい、みたいな……
 で、ボクもちょっと面白いかなって気分にはなったよ。ボクもまあ登場生き物の一人だけど……ちょっとなんていうか、ちょいやく?友情出演?そういう感じがしてた(『水の惑星』っていう、すっごく長いお話に出たばかりだよ)。で、ボクが「ほとんど主役級」のお話が別にあって、もうヨシに少し話してるんだけど、まだできあがってないんだ。そういうびみょうな状態で、ばんばん作者を批判する、そうしたら天使みたいな主役級のボクに、いつのまにか暗い影がさして、けっこう複雑な性格になったりして……とかはないと思うけど……
 「ね、楽しそうでしょ。リリーがうちがわからお話を見て、アルバがずっと上からお話を見て、森を案内してくれるの。お話の森のナビゲータ。でもひとつひとつお話を紹介するとかじゃないの、もっと……全体のことっていうか、ヨシがどういうげんりげんそくで、どういう描き方で、どういうこころもちで、こういうごちゃごちゃの森をつくりはじめたかっていう、そういう案内。」
 これもちょっと面白いなって思った。ヨシの本ってさ、とちゅうからとつぜんむずかしくなったりして、あたまがぼんやりしたりする。きっと、ぼんやりむずかしいてつがくをずっとやってきた、そのせいだろうね。で、みっちゃんがいま言ったように、まさにどうしてそういう人がとつぜんお話を、それもわかりやすい(ぜんたいとして、だよ)絵本を書く気になったのか、それはボクたちもずっと気になってたんだ。それを「作者じきじきに」聞けるっていうのは、それは登場生き物のボクたちとしては、かなりしあわせなことなのかもしれないって思ったわけ。
 「じゃあ……案内って言っても、そういうげんりげんそく、かきかた、こころもちをヨシから聞いて、それをどくしゃに報告する、それでいいの?」
 「パーフェクト!」
 みっちゃんとヨシは親指立てをしてくれた。
 で、引き受けることになったんだけど……
 いまはね、その最初の「質問事項のリスト」をもって、山荘に向かってるとこ。
 そう、上から見た森といったらね、いまは冬のただなかでしょ。生き物はみんな苦労して春を待ってる。ヨシの山荘がある森の裏手は奥山になってて、そこでライチョウのお母さんが冬のお日様に祈ってるのに出会ったよ(挿絵3)。こんな声が聞こえてきた……
雪山でお日様にお祈りするライチョウのお母さん。

〈おひさま おひさま いつも にこにこ
 にこにこ ぽかぽか ふっくら ぬくぬく
 あったかうもうにつつまれて こうしてふっくらはるをまちます
 おひさま おひさま わたしの おひさま
 みんなの こどもの おとなの おひさま ぐんぐんそだって
 はるのやさしいおひさまになりますように おいのりします〉

 ね、いいでしょ。なにがいいかって、いきものって、みんな同じだなって感じる。おひさまを見て、ああ生きててよかったなって思う。それがぼくたちみんなの姿だなって、そう感じると、こころもぽかぽか……
 あ、きょうはこれでいいのかな。もうHP始まっちゃったみたいだから、いちおうこれでのせてもらうよ……
 つぎはね、リリーとまちあわせをして、いよいよ山荘に行く話……になると思う。楽しみにしててね。



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