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 〈絵本の森〉物語 menu

更新日:2021年9月16日

1:ケーキパーティー

2:迷子の神様

3:じゅんすいなお話

4:童心の物語

5:森のお話、お話の森

6:神様の接近

7:記憶の輪、夢の行列

8:お話で哲学する


〈絵本の森〉物語


朗読・michiko

3:じゅんすいなお話

カンボジアの夢。表紙絵。菩薩帝王の水の夢の跡。
 きょうもナビゲータはボク、アルバだよ。あとリリーもいるからね。ボクたちの前にはガウン姿のヨシがいて、部屋は暖炉でぽっかぽか。大きなテーブルでいっしょにお茶してるとこ。ボクとヨシは紅茶とみっちゃん特製のアーモンドクッキー。リリーは「なまリス」だから大好物の「なまアーモンド」と〈石清水、産地限定販売〉っていうのをコップに入れてもらってる。ボクはすぐあのコヨリをヨシにわたした。〈絵本の森についての質問事項、登場生き物代表アルバ〉ってやつだよ。ヨシはお茶を飲みながらそれを見てた。
 リビングみたいなこの部屋は、窓が高く大きくとってあるので採光がよくて、ヨシは絵付けのお仕事にもつかってるみたいだ。で、いつものことなんだけど、挿絵のシリーズを絵付けする時には、早めにできた一枚をあとの仕事の「モデル」のために貼って使ってる。きょうは、ちょっと不思議な仏様の絵がディスプレイの上に貼ってあった。こんな絵だよ(挿絵6)。リリーもアーモンドをぽりぽりかじっては、岩清水をなめなめ、この絵をちょっと気にしてチラチラ見てたけど、とうとうヨシにこう質問した。
 「この絵が次のお話なの? 不思議な絵ね。でもこれはロラとロルね。」
 リリーはおててで手前の黄色いわっかの中の子供を指した。これはボクもわかってたよ。地球を旅してる、「始原のひかり」の子供たち。いきもののいろいろなお話に興味をもって、その現場に行って、「しょうげんし、きおく」するのが自分たちのおつとめだと思ってるんだよ。ヨシのファンタジー世界のまあ案内人みたいなものだね。あれっ、そうか、じゃあナビゲータだね。ボクよりずっと向いてるかもしれないけど……
 でも〈ひかりのこどもたち〉は、ヨシの分身かもしれないなってそう感じるところもあるから、やっぱり「なま精霊」のボクのほうが客観的にお話世界を見られるかも、とか思う。分身っていうのは言いすぎかな。「童心の象徴」っていうふうなことをヨシが言ったことがあるから、そっちの方だろうね。ボクにもキミにもヨシにも、そのこころの奥底に「童心」がやどってて、ふうん、世界って面白いな、素晴らしいな、でもときどき悲しくなるな、とか思いながら見てる。見呆けてるっていうのかな。自分であって、自分じゃなくなる、みたいなぼうっとした見方。その「主体」が「童心」なんだって。ちょっとむずかしいでしょ。でもどっかあたってるなって思う。だからさ、「童心」そのもののロラとロルは、ボクにもキミにもヨシにもやどってる。そういうところがあるんだと思うよ。
 「そしてこれは……ルリ?」
 リリーは質問を続けてた。青い小鳥を指してる。ボクもそうかなって思った。オオルリの子。すごくまじめないい子だよ。「ちょっと重いところがある」とかキビオは言うけどね(そう言うキビオは「軽すぎる、おしゃべりだ」ってよく言われるよ)。
 「あ、なに? ああ、この絵のことか。そうだよ、ルリ君。ちょっと昔のお話に登場してもらってるから、モデルに使わせてもらったってとこかな。ロラとロルは年は関係ないしね。いまから二十年くらい前のお話。」
 ヨシはそのお話のことをちょっと説明してくれた。カンボジアっていう南の国に、こういう仏様のお顔を飾った門とかが沢山あるんだって。まるで林みたいに菩薩様(観音菩薩様みたい)の像がたくさん並んでる、そういうところもあるみたい。なんだか聞くだけでぼうっとする夢みたいな話だよね……で、そのお話は、『カンボジアの夢』っていう題で、お話っていうか画文集?そんなかたちでいまちょうど仕上がったところみたい。ヨシがスケッチ旅行をしたのがもう二十年くらいも前で、それを「ふっといまごろ仕上げてみる気になった」みたいだよ。
 「これは……お水の紋様? 『水の惑星』と似てるね。」
リリーはこんどは面白いかたちでうねってる、青い渦を見ながら聞いた。ヨシはへえっという顔をした。それからああ、そうかという顔。
 「リリーは校正手伝ってくれてるんだったよね。ありがとう。」
こうヨシが言うと、リリーがボクに説明してくれた。
 「校正は〈編集長〉のみっちゃんのおしごとでしょ。でもこどもむけのひょうげんとかで、どうかなって思うと、わたしとかルリにメールで聞くの。ほら、わたしおじいさんからもらったスマホ持ってるし……だから助手ってとこ。」
 『水の惑星』は、ヨシの二番目の長篇で、ちょうどいま出始めたとこだよね。ボクも仲間からいろいろ噂は聞いて、読み始めるのすっごく楽しみにしてるんだけど、リリーがもう「助手」としてお話をのぞいてるらしいっていうのは初耳で、そしてちょっとうらやましかったよ。
ヨシはにっこり笑うと、コヨリをちょっと手でのばしながら見た。
 「三つ質問があるね。他には?」
リリーがすぐ「行列」のことを聞いた。これで全部。
 「じゃあ、質問は四つ。はなしやすいトピックからでいい?」
うん、いいよってリリーもボクもこたえた。
 「それじゃあね、まずはなしやすいっていうか、大元の原理っていうか、ふとある日、じゅんすいなお話が聞きたいと思った、そのことから話してみるね。」
 ヨシはちょっとあたりを見回すみたいなしぐさをする。これはヨシのくせでね。なにかを見てるわけじゃないんだ。あたまを整理してるときの仕草。考えがまとまると、相手をしっかり見る。で、この時はボクとリリーをじっと見た。
 「すきとおった、とってもじゅんすいなものが、このボクたちの惑星、地球には、三つそんざいする。あと一つ、すきとおってなくて、かたまりになってるけど、そのかたまりがずうっとひとつながりになって、やっぱりとってもじゅんすいなものが一つある。この四つがね、ボクたちの世界の枠組みになってる。ボクたちはその中で生きてる。さあ、この四つってなんだろう。」
 「一つは、これ?」
 リリーは岩清水のコップを持ち上げた。それから絵の中の青い渦を指す。
 「あっちもそうだね。」
 「そう、お水がそうだね。すきとおって、じゅんすいで、そしていのちのすべてを支えてくれる。」
 「あとはこれ?」
 ボクは羽をちょっとだけ動かした。テーブルの上のコヨリが少しはためくくらい。
 「このあいだの山神様、さっき見たら風の神様だったよ。」
 ボクはさっき見たばかりのことをちょっと説明した。ぼさぼさ頭のホームレスみたいなお年寄りが、突然大きなすきとおったお体になって、大空に舞い上がっていったことだよ。
 「風の神様に会ったのはきょうが初めてじゃないんだ。大海原ではね、気配とかはいつも感じてるよ。そして……実際に会ったこともある。ヨシにはもう話したけどね。あの大嵐の時……」
 ボクはちょっと苦しくなってうなだれた。トラウマっていうの? そういうしんどい光景がどんどんよみがえってきたわけ。ヨシは手をのばして、ボクの肩をやさしくなでてくれた。  「そう、風もお水もね、やさしい面とこわい面がある。アンビバレントっていう用語があるんだけど、よくもわるくもなるっていう意味だよ。」  ボクはちょっとからだをゆすって、トラウマをわきに置いておいた。で、こう続けた。
 「かたまりになって、ひとつづきになって、ボクたちを支えているものも分かるよ。陸地っていうか、大地でしょ。ボク、お空を飛ぶのは大好きだけど、ちゃくりくして、自分の下にしっかり土とか砂とかが広がってる、もうからだもゆれてない、そういう感じもすっごく好きなんだ。あんしんして頼れるっていうか。」
 「土ってそういうとこあるわよね。原っぱも雪の原も好きだけど、むきだしになった赤土とか見て、近づいてふみしめると、あしのうらがちょっとあったかくなって、ああ生きてるなわたしって感じてうれしくなる。」
 リリーも賛成してくれた。リリーは指をたてて数える。
 「お水と、風と、土でしょ。これで三つ。あと一つ、すきとおってじゅんすいなもの。なんだろう。わからない。」
 ボクもわからないって言ったら、ヨシは答えを教えてくれた。火なんだって。ああ、そうかと思うけど、ほんとうにそうかなって思うところもある。なんか他の三つみたいな安心感がないっていうか……ヨシは笑ってこう続ける。
 「なっとくいかないのはね、森の野火とかをすぐ思うからさ。でもあのお日様を見てごらん。」
 ちょうどリビングの高窓から、冬のお日様のひかりが差し込んでた。晴天なんでとってもやわらかい、いいひかり。
 「お日様も大きな火のかたまりなんだよ。ぶつりがくとかの助けをかりなくてもね、もう大昔からそうわかってた人も多かった。キミたちだってそうでしょ?」
 そうか……あったかくてぽかぽかのお日様。いっつも照らしてくれるからあたりまえみたいに思ってたけど、あれはやっぱり火なんだ。なっとくだね……
 「水と風と土、そして火、これがね、じゅんすいなそんざいだよ。この地球のいのちのすべてをささえてくれる、四つのぜったいにないといけない、そういうそんざい。昔の人はね、四つの大いなるそんざい、〈四大〉っていう言い方をした。それでね、そういうたいせつなそんざいなのに、おはなしがないんだよ。お水のお話、風のお話、土のお話、火のお話。図書館に通ってずうっと探し続けたら、あるにはある。でもそれはもうずっと古い伝説とか神話で、しかもごくとぎれとぎれに、すこししか出てこない。」
 ヨシはまたボクたちをじっと見た。
 「でね、これが第一問への答えなんだ。ふっと四大のお話が聞きたいと思った。読みたいと思った。でもないんだよ。そういうじゅんすいなたいせつなそんざいのお話がない。ぼくたち生き物すべてにとって、もうこれいじょうないくらいにたいせつなお話のはずなのに、ほとんどまったくない。で、ないならしかたないから、聞いてみよう聞いてみようとこころをすませてるとね、聞こえてきた。聞こえてきた気がした。それが〈じゅんすいなものがたり〉のはじめだよ。」
 「ふうん、そうなんだ。で、ずうっと聞いてて、あのすっごく長いお水のお話ができたのね。」
 リリーは感心したように言う。ボクもへえって思ったよ。なんかあたりまえにみえて、奥が深いっていうか……たしかにボクがあんなに好きでお世話になってる風とか大地とかのお話って、ほとんど聞かないもんね。
雪山と雪原。クマの母子。
 「でもね、お話はめったにないんだけど、いっつも見てるものだよ。だから聞こうとするんじゃなくてね、見ようとする、絵に描こうとすると、もうあたりまえみたいに見えてくる。でもこんどはね、その見ようとするせいしんが問題になる。」
 ヨシはしょさいに行って、フォルダーケースを一つ持ってくると、中をさぐって一枚の絵を取りだした。雪山と森と雪原があって、冬のお日様がおそらの真ん中にある。母子のクマが雪原からそのお日様を見上げてる絵(挿絵7)。
 「二つを比べてごらん。四大はどう見えてる?」
 ヨシはボクたちに聞いた。お水の紋様が雪原に変わってることはすぐわかったんで、ボクはそう言った。リリーはお空が仏様の背景に見えるけど、「それはちょっこし」で、雪原の絵の方が「ほとんどテーマみたい」って、なんかすごくプロっぽい答え方をする。それからこう付け加えた。
 「火はお日様でしょ。そしてこの絵の中には風も感じる。きりっとすきとおった、寒いけど気持ちのいい冬の晴れの日の風。仏様の絵の方は、風もお日様もすぐには見えない。ずっと向こうにはあるよって言われたら、そうかなっていうくらい。」
 ヨシはにっこりうなずいた。それから雪原の絵を指して聞いた。
 「こういう絵はふつう、なんて言う?」
 「風景画? ずいぶんヨシ風だけど。」
 リリーが右代表でこたえる。これでよかったみたい。ヨシはうなずいて、仏様の絵をさした。
 「こちらはね、〈文化風景〉っていうジャンルの絵なんだ。ボクたち人間がつくった文化とか文明をテーマにした絵。この場合は、カンボジアにあるこういう仏教遺跡がボクのスケッチの対象になったわけだね。」
 ヨシは続けて〈風景画〉と〈文化風景〉のちがいが、いまリリーが言ったことに関係してるって教えてくれた。つまりお日様とか風とかが遠のいていくのも、人間が「自分たちのことだけにかまけて」、四大のこと、地球のこと、いのちのささえのことを忘れていくのと関係してるらしい。これは……なんとなくわかったよ。つまりさ、前に言ったと思うけど、生き物の仲間でもすごく乱暴だったり、ちょっと考えられないくらいにおばかさんだったりする子がいるでしょ。そういう時は、ボクたちは迷わず「まるで人間みたいに×××だ」、とか「あの子、△△△なのは、ほとんど人間なみだね」とか悪口を言う。つまりそういう子はさ、やっぱりいのちのささえ、みんながたいせつにしなきゃいけない四大のささえを忘れて、自分自分自分でこりかたまってるんだと思う。悪口じゃないから誤解しないでね。すごくいい人もいるよ。自分がないっていうか……ほとんど聖人みたいな人も時々出てくる。でもキミたち人間ってさ、いっぱんてきに言って、やっぱりちょっと自分自分自分になっちゃうところがあるよ。いまのどっかの大統領みたいと言ったらわかりやすいかな。ま、あの人みたいに極端な人は、歴史博物館行きだと思うけど……
 ヨシは続いて〈風景画〉の話をしてくれた。ヨシは絵描きとしては〈文化風景〉から出発した人だけど、自分はずっと風景画家だと思ってたみたい。で、普通の風景画にはなにかしらなっとくがいかなかった……
 「絵はね、お話と似てるんだよ。いい絵はこちらに語りかけてくる。見てごらん、こんなに世界はすばらしく見えることがあるんだよって、世界の新しい見方を教えてくれる。そういう本物の風景画はこころを解放してくれる。たとえば……広重とか北斎とかだね。全部じゃないけど、何枚かは本当に傑作だと思う。あと……フランチェスカの肖像の背景……レンブラントのペン画、ゴッホ……」  ヨシはまたあたりを見回した。でもすぐにっこり笑ってまたボクたちを見た。
 「つまりね、何もお話ししないで、変な言い方だけど、自分のおへそばっかり見てる絵も多いんだよ。ほらこんなにうまく描けるぞ、みたいな気分で持ちきってる。ボクはそういう絵描きにはぜったいになりたくないって思ったよ。だからずっとあるていど下手そのままを通してる。ぎじゅつよりせいしんだよ、とか言いながらね。まあ……職人にはまずなれない人だしね。文人画っていう、いい言い訳が用意されてるから、のびのびやってるよ。」
 ヨシはくすくす笑った。それからこう聞いた。
 「四大と風景画はそのままつながってる、これはわかるね?」
 なんとなくだけど、わかるって答えた。リリーもうなずく。
 「じゃあ、水、風、火、土の中で、風景画を一つにまとめあげる、ほんとうの主役はなんだろう。」
 ボクとリリーは顔を見合わせた。
 「風? 風景画が風の景色って書くからじゃないけど……」
 リリーが答える。ボクも同感。ヨシは笑ってうなずいた。
 「そう、風だよ。風は見えなくてもどこかから吹いてくるしね。風はプネウマ、スピリトゥスって呼ばれたこともある。つまりせいしんだね……でもボクなら〈外化したこころ〉って呼びたいね。世界のこころ、それが風じゃないかって思う。風景とか風姿とか、日本語もすばらしいところがあるよ。そういう〈こころ〉をしっかりとらえてるっていうか……あ、ちょっとむずかしいかな。」
 ヨシはてれたみたいに頭をかいた。こういう時、奥さんでおともだちのみっちゃんがいると、「そんなことないわよ、面白いよ」とか言ってあげて、ヨシはほっとするんだと思うけど、リリーとボクはぽかんとするしかないから、ちょっとヨシがかわいそうだった……ヨシはまたその〈風〉の話を続ける。
 「ともかくね、風景を描く、それがほんとうの風景なら、そこに世界の風が吹いてて、その風はお話を聞きたがる。つまりじゅんすいなお話を聞きたがる。だって、世界のせいしん、世界のこころっていうのは、それはもうこうきしんのかたまりだからね。子供と同じだよ。じゅんすいな子供、童心とおなじ。じゃあ、このボクの雪景色、そこの風はどういうお話を聞いてるだろう。」
 これはすぐリリーが答えた。
 「この母子グマ、まだ冬なのに冬眠から出てきたの? だいじょうぶかなって、風の神様、心配してるよきっと。」
 ボクもじつは見てすぐそのことが気になったんだ。だからリリーに賛成。
 ヨシはうなずいて、最初の絵、仏様の絵を指した。
 「じゃあ、こっちはどうだろう。風は見えないけど……お話を聞きたいなっていう、そういう声は聞こえない?」
 「聞こえる。だってロラとロルがいるもん。あの子たち、ほんと、ねほりはほり、お話聞くのが大好きみたいし。」
 ボクはまだ二人に会ったことはないんだけど、そういう噂はたしかに聞いてるよ。だって童心のしょうちょうだったら、やっぱりじゅんすいなお話、たくさん聞き続けたいって思ってとうぜんだろうしね。
 ヨシはうなずいた。そしてその仏様のことをちょっと説明してくれた。なんでもその国にえらい王様がいて、国を立派におさめた、その記憶を残すために、自分の男盛りのころをモデルにして、菩薩様の肖像をたくさん作らせたんだって。
 「それはね、つまり観音菩薩みたいなせいしんで、国を治めたいって思ったからなんだ。で、当時はなんといっても農業が国の大元だろう。農業にはお水が欠かせない。その王様は……ジャヤヴァルマンっていう人だけど……大きな河と湖からかんがいの用水や運河をたくさん引いてきて、お百姓さんが楽にたくさんの作物が収穫できるようにしたんだ。つまりこのお水の夢がそうして残ったわけだね。」
 「ふうん、いいお話ね。じゃあ……ロラとロルが風の神様みたいに、その菩薩様みたいな王様の夢を見てるのね。」
 ボクもいいお話だなって感じた。しばらくじっとみんなで仏様のお顔をおがんだよ。
水の精のマミと風の精のサワの出会い。
 「じゃあこれで最後だよ。四大のじゅんすいなお話を書こうと思い立ったボクは、ようやくここまで来た。その記念ってとこかな。」
 ヨシは三枚目の絵をボックスから取りだして二枚の横にならべた。お水の精のマミと、風の精のサワがどこかの山頂で出会うとこだよ(挿絵8)。背景にあるおもしろい顔の女の子に見おぼえがあった。あ、そうかと思った。さっき消えていった土器のはしっこに描いてあった。ヨシが種明かししてくれた。この子は縄文土器に時々出てくる、〈大地の精霊〉なんだって。まだ農業は始まってなかったけど、クリの木を植えたり、大豆を育てたりしはじめてた。ぜんぶ土が関係してるから、その土の精霊に、今年もクリや大豆が無事育ちますようにってお祈りしてたらしいんだ。
 「ね、わかるでしょ。四大のものがたりもね、進んでくると、こうしてペルソナっていうか、キャラっていうか、男の子や女の子の姿になって楽しいお話をつむぎはじめるんだよ。」
 ふうん、風景がこうして姿形になって、そしてお話が始まるのか。でもそれは風景の四大の子たちだから、やっぱりじゅんすいなんだ。ボクははじめてじゅんすいなお話の、そのせいしん?それともこころかな?ともかく、「ほんしつ」みたいなものにふれた気がしたよ。
 きょうはここまでかな。まだまだ質問と回答は続くからね。次回は〈純粋物語は童心物語でなければならない〉っていう、そういうヨシのそうさくげんり?しゅちょう?そういうお話になると思うよ。楽しみにしててね。



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