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 ロラとロルの神様さがし menu

更新日:2023年10月28日
       (最終回)


1: 神様の国なのに、
   どうして神様がいないの?


2:神様さがしのはじまり

3:鳴き声

4: いつもしずかに笑っている

5:お墓と御神体

6: 見えていて、見えてない

7: ふりむかないあいだは、
         そこにいる


8:古い神様と新しい神様

9:森の神様、森が神様

10:神様はどこにでもいるよ

11:温暖化と寒冷化

12: そこにいるけど、
       どこにもいない


13:団地の子育て

14:巣立ちのすがすがしさ

15:森と山の通い路

16:森のいぶきと子供たち

17:名代の木

18: アップルパイ・
         パーティー


19: 森と山と川をつなぐもの

20: ボクたちを包む神々しさ

21:生き物だけの進化

22:宇宙の〈四大〉

23:場所とそれをこわす力

24:内なる四大、内なる神様

25:護られて、護る


ロラとロルの神様さがし
――前篇:聞き取り調査――


朗読・michiko

13:団地の子育て

   カワセミのサワたちは、奥山の火山が噴火して渓流沿いの森に暮らせなくなった時、沼の神様の警告を聞いて、下流のもう浜辺が近いあたりに移住し、そこで暮らしたことは前にお話しました。河口には潟と砂浜があり、小さな漁港もあります。漁港の向こうには岩浜があり、磯釣りの名所になっています。そこには松並木もありました。とても変化に富む地形ですので、いろいろな生き物が暮らしていました。特に海鳥は、その岩浜の崖が子育てに向いているので、たくさん群れ合ってヒナを育てていました。ウミウやウミネコ、セグロカモメなどです。松並木では、アオサギやカワウも子育ての季節にはたくさん集まってくるようです。
 サワたちの一族は、噴火の被害がおさまると、また渓流の上流域に移動したのですが、海辺で暮らしていたころ、とくにウミネコたちと仲良くなりました。移住したあとも、時折は挨拶をかわしあったりしていたのです。それでロラたちが巣立ちの若鳥と「神様」の関係を調べようとしているのをサワが聞いて、「じゃあ、ウミネコがいいよ」といって、案内役をかってでてくれたのです。キビオもホシもついていきました。リリーはざんねんながら、少し遠すぎるので、「なにを見たか、ぜんぶ教えて。きっとよ」とねんをおして、森でひとまず別れたのです。
 海辺に出て、ウミウ、セグロカモメ、そしてウミネコの「子育てコロニー」をじゅんじゅんに見ていったのですが、それがぜんぶだいきぼな集団子育てで、まるで「人間の団地」みたいなのに、まずホシもキビオもびっくりしたようです。
 「だってもう、崖にびっしりお家が集まってるんだよ。ウミウだと崖がまっくろけ、カモメだとまっしろになっちゃうくらい。ほんと、びっくりしちゃった。」
 これがその日の「調査」を知らせてくれたキビオの第一声でした。ホシも、「森じゃまず考えられないよね、ボクたちだいたい家族単位だし」と言います。
 「もともとみんなでお食事をするからかなあ……海鳥って、わりと群れ合ってぷかぷか海に浮かんでるしね。」
 サワはこう言います。サワたちカワセミも、もちろん家族単位の営巣で、群れ合って子育てすることはまずありません。
 「でも、ボクたちだって、群れ合ってお食事したりするよ。どこのなにがおいしいかとか、じょうほうこうかんもできるし……」
 キビオはこう言います。ホシもさんせいしました。あと「集団ねぐら」といって、大きな木に一緒に眠ることもあります。キビタキはまれにやりますが、ホシたちはやらないようでした。ともかく、生活はいっしょにする利点が大きいけど、子育てはやはり家族の問題なので、みんなべつべつにというのが、森の小鳥たちの「そうば」にはちがいありません。それで海鳥たちのコロニーにいく前に、松並木の上を通ると、そこでも「集団子育て」のさいちゅうなので、これにもびっくりしたそうです。アオサギたちが木の枝の上に、「大所帯」で群れ合って子育てしているのでした。「あ、かわいいね」とロルがいって、そっちに行きたがるので、ちょっと寄り道することにしたのです。
 「アオサギって、森にも川にも海辺にもいるけど、だいたい一羽だよ。こどくを好むっていうか、ちょっと気むずかしいところもある、そういう鳥でしょ。それがヒナから若鳥のころは、みんなで群れ合ってガーガーペチャクチャ、木造アパート、すいじばきょうゆう、みたいににぎやかなんで、びっくりしちゃった。」
 これはキビオの感想です。ロラたちといっしょにおりたって、まずサワがお母さん、お父さんたちにあいさつしたようでした。ちょっと顔見知りだったのです。すると「ああ助かった、ね、ちょっとるすばんしてて」とお母さんは言って、お父さんに目配せし、すぐ飛び立ったそうです。
 「これも、なんか考えられないよね。そりゃボクたち小鳥だけど、子育てしてるときに、他の鳥に留守番頼むなんて……と思ったら、まわりを見てびっくりして……みょうになっとくしちゃった。」
 キビオは思い出し笑いをしました。その並木の上にはびっしり枝をならべて、広々とした巣がたくさんあるのですが、そこにはアオサギだけでなく、カワウや、シロサギまでいたそうです。そしてみんな「木造アパート、すいじばきょうゆう風」に子育てして、おしゃべりをするので、たいへんなにぎわいだったようです。

集団子育て中のアオサギのコロニー
スダチ間近の若鳥三羽
 「いろんな子がいて楽しいね。」
 ロルは三羽のアオサギの子がならんでいるところに行って、あいさつしました。アオイ、アオウ、アオエという名前の子でした。
 「そうだよ、楽しいよ。おしゃべりしながら食べるお魚が一番だよ。」
 みぎはしのアオイが、みぎだいひょうで答えます。
 「巣立ちはもうすぐ? おんだんかとかで、海もたいへんじゃない?」
 「たいへんじゃないよ。海は海だよ。お魚たっぷりのコンビニだよ。二十四時間営業だよ。」
 アオウがいうと、アオエもうなずきます。
 「海がだめなら、川があるよ、川がだめなら、池があるよ。どこかにコンビニはあるよ。」
 「コンビニ……だって。なんかみんなアオサギのもの、みたいな……」
 ホシはキビオにささやいて、くすくす笑いました。ロラはちょっと考えて、「ここにも調査対象がありそうだ」と感じましたので、こう聞いたそうです。
 「コンビニは……だれかが用意してくれたんでしょ。店長さんが……海の神様?」
 すぐアオイが答えます。
 「ちがうよ。コンビニはお魚を持ってる人が、お魚がほしいひとにあげる場所だよ。だからコンビニエンスだよ。ちょーべんり。」
 なんだかりくつがあってるような、あってないような感じで、ロラはちょっと混乱しましたが、でももう一押ししてみることにしました。
 「それで……そのコンビニにさいしょにでかけるのが、巣立ちだとして……でもすごくきんちょうとかしない? 神様、一人前になりましたとか……すがすがしい気持ち、しない?」
 「ぜーんぜん。」
 三羽はそろって笑いました。アオイがまた右代表で言います。
 「巣立ちっていうのは、せいじんしきでしょ。みんなでおいしいお魚もちよって、盛り上がって、二十四時間営業のカラオケで一晩さわいで、あさになったら、ぴょんとここから飛び降りるの。そして海のコンビニにでかける。ちょーかんたんだよ。」
 三羽はうなずきあって、クゥクゥクゥと満足げに鳴き交わしました……
 「なんだか……あんまりかんたんすぎるみたいで……」
 ロラはその時のことを思い出して、またおかしくなったのでしょう、くすくす笑います。
 「でもあの時はちょっと落ち込んだよね。巣立ちには神様必要ないのかなって。ちょーかんたんみたいし。」
 ロルのこの気持ちもわかります。
 ともかくロラたちは「ちょっとでばなをくじかれた気がして」、ウミネコのコロニーに向かったのでした……
 その「団地のような」ウミウとウミネコの「繁殖子育てコロニー」を見て、ロラとロルはすぐ、「お友だちのペンギンたち」を思い出したようでした。ロラとロルはさいしょ、オーロラのお兄さんの背中にのり、南極にやってきました。その時はまだ夏だったので、真っ暗闇の世界だったのです。そこで最初に出会ったのはコウテイペンギンたちでした。お父さんが卵を一つだけだいて、春まで酷寒の冬を飲まず食わずですごすのです。春になるとようやくお母さんが食べ物をたくさん持って(つまりおなかにつめて)帰ってくるのでした。それを生まれたばかりのヒナに与えて、ようやく子育てがはじまるのです(ふらふらのお父さんは、ようやくかわりに海にでかけて食事にありつけます)。これがロラたちの見た、最初の「子育て」の光景で、「もう言葉にできないほど感動した」そうです。秋になってお日様がさしてくると、ヒナたちともおともだちになって、いろいろとお話ししたようでした。
 「みんな仲良く集団で子育てするのよ、だからこの島の森でもそうかと思ったら、わりと一家ごとなんで、かえってびっくりしたくらい。」
 ロラがこう言うと、ロルもうなずきます。
 「そうだよね、だからウミネコさんやウミウさんとか見ても、びっくりしなかったよ。かえってペンギンさんの仲間みたいに見えた。」
 「ということは……森と海じゃはんしょく方法が違うってこと?」
 リリーが聞きました(わたしたちはまた山荘で、この時の「フィールド」を話題にしていたのです)。
 「でもヨシといっしょに見たドキュメンタリーじゃ、木でたくさん子育てしてる小鳥さんを見たよ。たしかアフリカだったけど。ボクはあの……ちょっと俗っぽい?あんまり神様のこと気にしてないアオサギの子たちみて、すぐ思い出した。もちろん……小鳥さんたちの〈信仰心〉のことまでは、画面からはわからなかったけどさ。」
 キビオは、〈地場の岩清水〉をぐびっとおちょこからのみながら言いました(いつもの〈おもてなしの定番〉です)。
 「あれは……ハタオリドリだね。スズメの仲間らしいよ。ものすごく大きな団地みたいな巣を木にかけてたね。」
 わたしが記憶をたどりながらこう言うと、キビオは首をかしげました。
 「だって……スズメさん、やっぱりボクたちと同じ一家ごとだよ。よく群れ合ってるけど、あれはお食事とかの時だし……」
 わたしはちょっと考えをまとめました。集団営巣の子育てか、小家族でのしんみりした育児かというのは、わたしもずっと前から気になっていた、「いきものの偏差」なのです。それでいちおう、わたしなりの「理論」を紹介してみました。「理論」といっても、とても単純で、つまりひらけた場所なら集団、奥まった場所なら個別の育児が好まれるらしい、それはおそらく環境との関係で、メリットがあるからだろうということです。
 「……だから同じスズメの仲間でも、アフリカのサバンナはとても広々とした草原だから、てんてきとかも多い。集団営巣に向いてるっていうか……集団で子育てした方が安全だからじゃないかな。日本の森はぎゃくに安全で、しんみりして、そしてとてもこじんまりした場所に無限にわかれていく……ニッチっていうんだけど、いきものが暮らせる環境が小さくて、そして隣り合ったり、入れ子になったりしてる。だから小家族で暮らすのに向いてるんだろうね。」
 「へえ、わたし、日本人みてて、やっぱりこじんまりして、しんみりしてるなって思ってた……あ、わるくちじゃないのよ。そういうのもすごくいいとこあるから。だからやっぱり……島国だからかな。」
 リリーはちょっとなっとくしたようです。
 「そうだね、そういうところもたしかにある。でもさいごは、集団の、そして個人のしゅたいてきなせんたくだと思うよ。たとえば……そう、アオサギが集団で営巣してるからといって、おなじようなところで生活しているタンチョウヅルは、やっぱりしんみり小家族だからね。それもとても長く続く家族だよ。」  「集団生活してると、はやく大人になるっていうか……いいとこも悪いとこもあるよね。」
 キビオはちょっと思い出し笑いをしました。
 「アオサギの子たちだね。あれはぼくも……ちょっとついていけなかったな。カラオケで盛り上がって、コンビニたくさんの海にいくのが巣立ちだ、とか……」
 ホシも苦笑します。
 
イワトビペンギンの行列
ロラとロルはなにか思い出したようでした。顔を見合わせて、ちょっと首をかしげています。「なにか思い出したの? ペンギンさんたちのこと?」と言うと、ふたりともうなずきました。
 「じゃあ、ペンギンさんも、カラオケ?」
 リリーが笑いながら聞くと、ロラは「ちがうよ、すごくくろうしてる」と言って、その「集団コロニー」にたどりつくまでの大変さを話してくれました。イワトビペンギンという小型のペンギンは、海岸から文字通り「岩をとびながら」内陸のその営巣地にまでたどりつくのだそうです。
 「ころんでも、けがしても、がまんしてずっと歩くんだよ。ほんと、えらいよね。」
 ロルも思い出してしんみりします。
 「それにね、いま思い出しても、カラオケとかコンビニとかなかったし、ものすごく大きな集団でいるんだけど、子育ては一家でしんみりやってた。うまく使い分けているっていうか……」
 「でもけんかもしてたね、どうしてもせまくなるから。ね、あのマゼランくんたち……」
 ロルは思い出し笑いをします。南極を少し離れた場所で、また小型のペンギンとおともだちになったおりのようでした。大陸棚から落ちてきた、大きな氷山とのベルク君という子とつきあっていて、かなりながいこと海の上をいっしょにただよったようなのです。それでそのペンギンは、マゼランペンギンという種類で、やはり海岸からはなれて集団で子育てするのですが、営巣地は岩場ではなく泥のある原っぱのようでした。そこに穴を掘って一家ごとに子育てするのです。ですから安全な、やわらかい泥の場所が必要なのですが、そういう場所はそんなに多くはありません。それでどうしても、「団地」がたてこむだけでなく、穴の奪い合いが起きてしまうようでした。
 ロラたちは最初、「みんな仲良くやってるね」ととてもうれしくなったようなのですが、ちょっと見ていると、近くで夫婦どうしがけんかをしているのに気がつきました。あんまり「けんあく」なのに心配したロルが、とうとう「どっちがさきに見つけたの?」と口をはさむと、右の夫婦が「わたしたちです」と言います。するとひだりの夫婦は、「でもきょねん作ったのは……お手入れしたのはわたしたちです」と言います。これはとてもむずかしい、裁判所でも決めかねるあらそいごとだと思って心配していると、穴からかわいい子供が心配そうな顔を出しました。右の夫婦の子です。それで左のカップルは「あら、もうつかってらっしゃるの。かわいいお子さんね」と言って、「じゃ、ことしはあきらめます」とあっさり立ち去ったそうです。ロラもロルもほっとしたようでした。
マゼランペンギンの巣穴をめぐるけんか
+ロラ、ロルの心配顔?
 「こういう場所あらそいって、森の子育てにはあんまりないでしょ。」
 ロラがたしかめるように聞くと、ホシとサワは顔を見合わせて、「たしかにあんまり見ないね」と異口同音に言います。キビオはちょっと考えて、こう言いました。
 「巣を作る前には、いいところをめぐって追いかけっこもするよ。でも……最初に見つけた子のかちって決まってるから、だいたいすぐかいけつする。」
 これはほんとうです。小鳥さんは営巣をめぐってはげしく争うとよく言われるのですが、そう主張する人が忘れているのは、それは「早い物がち」というルールにのっとった、「儀礼的な争い」だということです。この争いで怪我人がでることはまずありません……
 「でもね、ペンギンさんのヒナたちは……若鳥たちは、すごくいい子だったよ。カラオケとかコンビニとか知らないだけじゃなくて、ほんとうにお日様が好きだった。」
 ロルが子供たちの〈信仰心〉をしょうげんしました。そしてその子供たちからならった歌をひろうしてくれました。お日様にむいて、目をつぶってうたうのだそうです。

  〈おひさま おひさま いのちのもとの やさしいおひさま
   どこにいるの みえなくなったよ どこにいるの かくれてしまった
   でもあんしん こうしておかおを うえにむけると
   いつもの あったかぽかぽか やさしいおひさま そこにいらっしゃる
   いつもの あんしんかくれんぼ ほらそこにいらっしゃる みつけたよ〉

おひさまとかくれんぼをするマゼランペンギンの子供たち
 こう言ってぱっちり目をあけると、たしかにおひさまはいつものように優しくぽかぽか子供たちを照らしているのでした。ロルは歌い終わってぱっちり目をあけ、わたしと目があうと、「きょうのヨシはきらきらかがやいてるよ、おひさまみたいだね」と言ってくれました。なんだかぽかぽかこころがあったまる、そういうほめことばです。
 ウミネコの話かと思ったら、いつのまにかペンギンのお話になってしまいました。でもみんなお日様にてらされて生きる、ひとつのいきもの家族です。
 それをたしかめて、今月はおしまいにしましょう。
 次回はいよいよ、ウミネコの巣立ちです。
 ウミネコの若者たちには、カラオケが近いのか、神様が近いのか、それがはっきりとわかると思いますので、期待して待っていて下さい。






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